クリニックの経理は、一般企業と同じように処理すればよいわけではありません。保険診療と自費診療で売上の性質が異なり、診療報酬の入金時期や未収金の管理など、医療機関ならではの注意点があります。この記事では、クリニックの経理で押さえておきたいポイントを解説します。
クリニックの経理が一般企業と異なる3つの理由
クリニックの経理では、主に「売上の種類」「入金のタイミング」「患者負担分の管理」の3点に注意が必要です。
一般企業では、商品やサービスを提供した時点で売上を計上することが基本ですが、クリニックでは保険診療の場合、患者から受け取る窓口負担分だけでなく、保険者等から支払われる診療報酬も売上に関係します。
例えば、患者の自己負担額が3,000円、保険者等から支払われる診療報酬が7,000円であれば、合計10,000円の診療に対して入金先と入金時期が分かれることがあります。
そのため、日々の診療データと会計データ、実際の入金額を照合する仕組みが重要です。
また、自費診療では保険診療とは異なる売上管理が必要になります。診療内容ごとに区分して管理し、月次で売上と入金を確認できる状態を作ることが大切です。
「売上」と「入金」は同じではない
経理でいう売上は、必ずしも銀行口座へ入金された金額と一致するとは限りません。
特に保険診療では、診療を行った月と診療報酬が入金される月が異なるため、月次決算では売上と入金を分けて確認する必要があります。
クリニックでは診療と入金のタイミングがずれるため、月次で診療データと入金データを照合する仕組みを作ることが重要です。
保険診療と自費診療は分けて管理する
クリニックの経理で特に注意したいのが、保険診療と自費診療の区分です。
保険診療とは、公的医療保険の対象となる診療です。一方、自費診療は健康保険の適用を受けず、患者が費用を負担する診療を指します。
両者では売上の発生方法や消費税の取り扱いが異なるため、会計上も区分して管理することが重要です。
消費税では、社会保険医療は非課税取引に該当します。一方、自費診療については、診療内容などに応じて課税・非課税の判断が必要です。
そのため、「クリニックの売上はすべて消費税がかからない」と考えるのは適切ではありません。
自費診療の売上を別管理する理由
自費診療の売上は、保険診療とは別の売上科目や管理区分を設定しておくと、月次の収益分析がしやすくなります。
例えば、保険診療が月800万円、自費診療が月200万円であれば、自費診療比率は20%です。
このように診療区分ごとの売上を把握できれば、経営判断にも活用できます。
さらに、自費診療で美容関連の商品販売などを行っている場合には、診療行為とは異なる税務上の判断が必要になる可能性があります。
保険診療は消費税上の非課税取引に該当しますが、自費診療は内容によって判断が必要です。売上区分を明確にしましょう。
診療報酬の入金と未収金を正確に管理する
クリニックの経理では、未収金の管理も重要なポイントです。
未収金とは、診療などのサービスを提供したものの、まだ回収できていない金額を指します。
例えば、患者の自己負担分が未払いになっているケースや、診療報酬の請求額と実際の入金額に差額が発生しているケースなどがあります。
未収金を放置すると、帳簿上は売上があるのに銀行口座の残高が増えないという状態になり、資金繰りにも影響します。
未収金は「金額」と「発生日」の両方を管理する
未収金管理では、単に合計額を把握するだけでは不十分です。
最低でも「患者・取引先」「発生日」「請求額」「入金額」「未収残高」「回収予定日」を管理しましょう。
例えば、未収金が50万円ある場合でも、翌月に40万円回収予定なのか、6か月以上回収できていない50万円なのかで対応は大きく異なります。
月1回は未収金一覧を確認し、長期化している債権を把握することが重要です。
未収金は金額だけでなく発生時期まで確認し、長期化しているものを毎月洗い出すことが回収漏れの防止につながります。
クリニックの経理で確認したい経費と領収書の管理
クリニックでは、医薬品、医療材料、医療機器、家賃、広告費、人件費など、さまざまな支出が発生します。
経費として処理する際には、支出内容を確認し、適切な勘定科目で記帳する必要があります。
特に注意したいのが、院長個人の支出とクリニックの事業上の支出が混在するケースです。
例えば、個人用のクレジットカードでクリニックの備品を購入した場合には、事業用の支出であることが確認できるよう、領収書や利用明細などの証憑を整理しておく必要があります。
高額な医療機器は購入時だけ確認しない
医療機器など、金額が大きい資産を購入した場合には、その年の経費として全額処理できるとは限りません。
固定資産に該当する場合には、減価償却という方法で複数年にわたって費用化することがあります。
そのため、例えば300万円の医療機器を購入した場合でも、購入金額だけを見て経費処理するのではなく、資産計上の要否や耐用年数などを確認することが必要です。
医療機器や内装など高額な支出は、購入時に「経費になるか」だけでなく、固定資産に該当するかまで確認することが重要です。
月次でクリニックの経理を確認する方法
クリニックの経理は、年1回の確定申告前にまとめて処理するのではなく、毎月確認することが重要です。
月次では、少なくとも「売上」「診療報酬」「窓口収入」「自費診療」「経費」「未収金」「預金残高」の7項目を確認しましょう。
例えば、1月の売上が1,000万円であっても、預金残高が前月より100万円しか増えていない場合、診療報酬の入金時期や設備投資、未収金などを確認する必要があります。
月次決算で見るべき数字
月次決算とは、毎月の収益や費用を集計し、クリニックの経営状態を把握するための処理です。
確認する数字を毎月固定すると、前月や前年同月との比較がしやすくなります。
| 確認項目 | 確認するポイント |
|---|---|
| 売上 | 保険診療・自費診療の推移 |
| 診療報酬 | 請求額と入金額の差 |
| 未収金 | 未回収残高と経過期間 |
| 人件費 | 給与・賞与等の推移 |
| 経費 | 前月・前年との増減 |
| 預金 | 帳簿残高と実際の残高 |
毎月同じ項目を確認することで、異常値や入力ミスにも気付きやすくなります。
経理は年1回まとめて確認するのではなく、毎月の数字を前年同月や前月と比較することで、異常を早期に発見できます。
クリニックの経理を効率化するにはクラウド会計も有効
クリニックの経理では、診療データ、預金、クレジットカード、請求書など複数の情報を扱います。
これらを手入力だけで管理すると、入力作業に時間がかかるだけでなく、転記ミスや確認漏れが発生する可能性があります。
そこで検討したいのがクラウド会計です。
クラウド会計とは、インターネット上で会計データを管理する会計システムです。銀行口座やクレジットカードなどと連携できるサービスを利用すれば、取引データの取り込みや仕訳作業を効率化できます。
例えば月100件の取引をすべて手入力している場合、データ連携によって入力作業そのものを減らせる可能性があります。
導入前に業務フローを整理する
クラウド会計を導入すれば、自動的に経理が完成するわけではありません。
「診療データを誰が確認するか」「入金を誰が照合するか」「領収書をどこで保存するか」など、業務フローを決めたうえでシステムを導入することが重要です。
また、消費税の課税事業者については、適格請求書等保存方式(インボイス制度)への対応も必要になります。国税庁は、仕入税額控除を受けるための適格請求書等の保存について案内しています。
(参考)国税庁「税抜経理方式または税込経理方式による経理処理」
システム導入だけを先行させず、入力・確認・承認の担当者を決めてから仕組みを作ると、経理の属人化を防ぎやすくなります。
クリニックの経理を見直すときの次のステップ
クリニックの経理では、単に帳簿を作成するだけではなく、保険診療と自費診療の区分、診療報酬の入金、未収金、経費、資金繰りまで一連の流れで管理することが重要です。
まずは直近3か月の経理資料を確認し、「売上と入金が一致しているか」「未収金が長期化していないか」「自費診療の売上を把握できているか」の3点を確認してみましょう。
そのうえで、月次の数字が翌月10日までに確認できる状態を目指すと、経営判断にも活用しやすくなります。
経理処理に時間がかかっている場合や、保険診療・自費診療の区分、未収金、消費税の判断に不安がある場合は、医療機関の経理・税務に詳しい専門家へ相談することも選択肢です。
よくある質問
Q. クリニックの保険診療と自費診療は分けて管理する必要がありますか?
A. はい。保険診療と自費診療では売上の発生方法や消費税の取り扱いが異なるため、会計上も区分して管理することが重要です。
Q. クリニックの未収金は何を管理すればよいですか?
A. 少なくとも「患者・取引先」「発生日」「請求額」「入金額」「未収残高」「回収予定日」を管理し、金額だけでなく発生時期も確認することが重要です。
Q. クリニックの経理は毎月確認したほうがよいですか?
A. はい。売上、診療報酬、窓口収入、自費診療、経費、未収金、預金残高などを毎月確認することで、異常値や入力ミスを早期に発見しやすくなります。
Q. 高額な医療機器を購入した場合、購入金額をそのまま経費にできますか?
A. 高額な医療機器は、その年の経費として全額処理できるとは限りません。固定資産に該当する場合には、減価償却によって複数年にわたって費用化することがあります。
Q. クリニックの経理にクラウド会計を導入すれば自動的に効率化できますか?
A. クラウド会計の導入だけで経理が自動的に完成するわけではありません。診療データの確認、入金照合、領収書の保存など、入力・確認・承認の業務フローを整理したうえで導入することが重要です。

まとめ
クリニックの経理では、保険診療と自費診療を区分し、診療報酬の入金や未収金まで含めて月次で確認することが重要です。
- 売上と入金を分けて管理する:保険診療では診療した月と診療報酬の入金月が異なるため、診療データと入金データを照合します。
- 保険診療と自費診療を区分する:売上管理だけでなく、消費税の判定にも関係するため、会計上の区分を明確にします。
- 未収金と月次の数字を確認する:未収金は発生時期まで確認し、売上や経費、預金残高などを毎月確認します。
経理の状況を定期的に確認し、必要に応じて業務フローや会計システムを見直すことで、クリニックの経理を適切に管理しやすくなります。

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